週末、エディオンに行った。
家の電子レンジが唐突に「バチバチッ!」と火花を散らし、まるでロックバンドのライブみたいなパフォーマンスを見せたので、新しいのを買いに行ったのだ。電化製品の寿命とは突然やってくる。人間関係の終わりと同じだ。
店内をウロウロしていると、前からおじさんが歩いてくる。
(どっかで見たことある顔やな……)
頭の中の記憶データベースをフル稼働させる。親戚? 昔のバイト先? いや、取引先の人か? どこかで絶対に会ったことがある。でも、思い出せない。
すれ違う瞬間、そのおじさんがペコッと会釈してきた。
(あっ! やっぱり知り合いやん!)
反射的に僕もペコリ。
しかし、歩きながら考える。
……でも待てよ? この人、誰や?
慌てて記憶を巻き戻す。会釈を交わしたからには、それなりの関係があるはず。なんなら相手も「おお!」みたいな感じやったぞ?
3秒間ほど脳内会議を開いた結果、驚愕の事実が発覚した。
毎朝、通勤電車の同じ車両に乗っているおじさんや。
いやいやいや! それ、知り合いにカウントする!?
毎日すれ違うだけの関係で、まさか会釈が発生するなんて。もしかして僕たち、通勤ラッシュの戦場を共に生き抜く戦友と思われてるんやろか。
たしかに、毎朝同じ時間に同じ車両に乗り、無言のまま吊革を握る僕たちは、もはや戦友と言っても過言ではない。だが、それでも僕はおじさんの名前すら知らない。
エディオンの家電売り場で、僕は人生の新たな教訓を得た。
「会釈されても、相手が知り合いとは限らない」
次の日、僕はいつもと違う車両に乗った。

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